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舞台『クザリアーナの翼』妄想ストーリー

Posted by cometiki on  

この物語は、cometikiの完全な妄想です。
舞台『クザリアーナの翼』のキャラクター、および
設定が登場致しますが、
舞台『クザリアーナの翼』本編とは一切関係ありません
ので、ご了承ください。
















朝から晩まで働いて。
日に一度の飯にありつけるか、どうか。

腹が減ったと嘆いても、労働がキツイと愚痴をこぼしても、
この国の最下層に位置するディッシュ民である以上、
なにも変えられない現実だった。


「はぁっ」


男・トキは畑を耕す手を止め、額の汗を拭った。

先祖代々続いていることとはいえ、この国は間違っている、
と思う。
同じ人間であるにも関わらず、上の階級の人間からの支配
に怯え、いつ殺されても文句も言えないなど…


「俺たちは一体、なんなんだ」


大きく二度目の溜息を吐いたとき、トキの目の前で突風が
起きた。

トキは身体をよろけさせながらも、なんとか踏みとどまり、
状況を把握しようと咄嗟に閉じた目を開けた。


「?!」


そこには、茄子みたいな色をした長い髪の毛と、真っ黒
な洋服を着た背の高い男が立っていた。

初めてみる。

それに。
こんな髪の毛の色や服の色をした人間は、この国には
いないハズだ。
階級ごとに決められた色を、思い返して瞬時に脳内で
判断する。


「ほう?意外と冷静だな?」


怪しい男は薄い唇を、軽くあげてニヤリと笑った。
尖った目の奥に光る瞳も、紫色をしている。細い顎、
整った鼻、綺麗に弧を描く眉…。

黒い洋服は、袖も裾も長くヒラヒラとしている。
よく見れば、細かい刺繍や細工が施されており、
男の高貴な雰囲気に更なる迫力を与えていた。

最下層のディッシュ民の住む土地・アギトプンクトに
いること自体、不似合いだ。


「迎えにきた」


「は?」


トキは慌てて口から出た言葉を、手で押さえた。
ディッシュ民は、上の階級の人間とまともに会話を
することを禁じられていた。

ディッシュ民である以上、感情すらあらわにする
ことは許されない。
いつも冷静に、支配下に置かれていることを理解し、
言葉を選んで喋らなくてはいけない。

しかし。
目の前に立つ黒い男が、どの階級の人間なのか未だに
判断がつかない。

第三種平国民であるならば、多少の言葉は選べば
話せる。
だが、第二種軍国民であるならば、話すことすら
禁じられているのだ。

うっかり判断を間違えて、声を出してしまえば、
よくて重労働、悪くて死刑であった。


「安心しろ。見ての通り、わしはこの国の人間では
ない。…まあ、人でもないがな」


「?!」


「疑り深いな。これならどうだ?」


黒い男が指を鳴らすと、本来耳がついている辺りに、
狼のような尖った獣の耳が現れた。


「お…お前、何者だ?」


理解の追いつかないことばかりで、口が渇く。
やっと絞り出した声は、掠れて震えていた。


「人ではないモノだ。それより、お主に用がある」


「お、俺に?」


「クエーサーを知っているか?」


”大帝クエーサー”。
この国のピラミッドの、頂点に立つ存在。
絶対的権力の象徴。
この国のすべて、ともいえる。

その名前を聞くだけで、長年植えつけられてきた
恐怖がトキを襲う。


「死んだ」


「えっ?!」


「なんとも脆いものだ。どうやっても数百年と
保たぬ」


「それは…」


人間の寿命は長くない。
特にディッシュ民は。
食べるものもロクに食べられず、重労働を課せ
られ、その働きが悪ければ容赦なく、殺される。

トキにとって、人間とはそう長く生きられないもの
…という認識だ。
それが、数百年とはどういうことか…。

唯一人の人間であるクエーサーならば、自分とは
違う時の中で生きているのかもしれない。


「なにも変わらぬよ。クエーサーも人間だ」


「なら、なぜ数百年も生きていられるんだ?」


「歪んだ運命…とでもいうべきか。次は、お主
の番だ」


「お、俺の?」


「そう。お主が”クエーサー”となる日がきたのだ」


男の言っている意味が理解できずに、トキは
固まった。

今まで…いや、きっとこれからも見ることすら
叶わぬだろう大帝に、自分がなる?
ディッシュ民である、この自分が?

夢見る以前の問題だ。
なれるハズがない。


「なんだ?喜ばぬのか?この国の頂点に立てるの
だぞ?」


「立てるものか!俺はディッシュ民だぞ?!」


「階級など関係ない。お主が選ばれたのだ。
これは代々決められし因縁。前の男もディッシュ
民だったが、喜んでおったぞ?」


クエーサーが、ディッシュ民?!
トキは自分の足元が、地面から崩れていくのを
感じていた。

最下層の人間が、どんな思いで、どれだけ我慢を
して日々を過ごしているか知っていたならば、
なぜこんな悪習を続けていたのか…。

自分だけが、この苦しみから解放されればよかった
のか?自分だけが…。


「本当に、俺がこの国の頂点に立てるのか?」


「そのために迎えに来たと言っている」


「ならば、今すぐに階級や差別のない国を作る!」


「お主には無理だ」


希望に燃えたトキの言葉を、黒い男は一蹴した。
底の見えない闇のような瞳が、トキを射すくめる。


「変える、変えたいなどと言いながら、何もして
こなかった人間が、転がり込んできたチャンスに
便乗して、何ができると?精々、現状を維持する
ことくらいではないのか?」


「そ、それなら、頂点に立つ意味なんかない!!」


「お主が立たぬというならば、この国。滅ぼす
までだ」


「卑怯だぞ!」


「なんと言われようが、それが契約でな。反古に
するというならば、こちらにとっては都合がいい」


黒い男はトキを試すように、にやりと笑った。
トキは歯を食いしばり、拳を握りしめて、精一杯
男を睨み返す。
大した反撃にはなっていないようだったが…。


「あぁ。お主が立てば、望みが叶うかもしれぬぞ?」


ふと、思いついたように、黒い男が視線を巡らす。
トキはその言葉に、緊張を解いた。


「望み?」


「自由な世界、とやらを作りたいのであろう?何が
面白いのか知らぬが…」


「い、いつだ?!」


「さあ…いつかはわからぬ。1年か10年か、
100年先かもしれぬし、1000年先のことか
もしれぬ。まあ、そこまでお主が耐えられれば、
の話だがな?」


「いつか…いつかその日が来るなら…なる!
クエーサーに、なる!!」


「私利私欲に走ったほうが、楽だと思うがな?
わからん人間だ。なぜ、そこまでする?」


「俺は、ジャメーリアを愛している!」


「傑作だな。ふふ…ならば、楽しませてもらおう。
誰からも愛されず、望まれず、周囲に取り残され、
それでも孤独に耐える、お主の姿をな」


スラリと現れた大きな剣を、黒い男は軽々と操り、
トキへ向けた。
そして、素早くトキを掴むと剣の柄の部分で、
肩を突いた。

トキは内側から何かが変えられてゆく衝動に、
悶えながら蹲った。
声を上げることもできないほどの、痛みと
おぞましさだった。

それが、クエーサーにかけられる呪いだと知る
のは、もうしばらく後のことになる。







「逆らうものに用はない。殺せ」


インカムに向かって、淡々と指示をだす。
そこにはトキであった頃の面影は一切なくなって
いた。

トキ自身でさえ、あの頃の記憶は曖昧になりつつ
あった。
もうどれくらいの時を”クエーサー”として生きて
いるのか…数えられたのは、最初の100年くらい
だったように思う。


黒い男の言ったとおり、トキは頂点に立ったから
といって、何も変えることはできなかった。

それは”トキ”としてこの場所に立っているから
ではないからだ。
ここに居るのは、あくまでジャメーリアの絶対的
象徴である”クエーサー”だった。

代々続いてきた”クエーサー”としての悪習を、
トキとして変えることは、できなかったのだ。


失望する。
自分に、ジャメーリアに生きる全ての民に。
もはや、誰もこの仕組みを変えようとは思って
いないのではないか?

だとしたら、これまでの自分はなんだったのだろう。

なんども自ら死を選び、剣で己を突き刺したが、
死ねることはなかった。
そのたびに、あの黒い男の高らかな笑い声が響く
…「そうだ!もっと苦しめ!」と。


「真面目に憎まれ役をやっておるな?」


部屋の空間が歪み、ぐにゃりと黒い男が現れる。
その登場の仕方にも、トキは驚かなくなった。
ただ声のするほうへ視線を動かしただけだ。


「だから言ったろう?もっと私利私欲に走れと」


「用件はなんだ?からかいに来ただけなら、
帰れ!!」


「ほう。そんな口を叩けるようになったのか?
だがよいのか?朗報を持ってきてやったのに」


この男の言うことに、ロクなことがないとわかって
いるトキは、視線を元に戻した。
その態度を見て、黒い男はさらに愉快そうに鼻を
ならす。


「叶いそうだぞ?お主の望み」


「…望み?」


望みなど、なにもない。
今はただ…いつ朽ちるともしれぬ身体の、最期を
待つばかりだ。

その日が、本当に来るのかも、最早わからなくなって
しまっているが。


「”自由な世界”とやらを、作りたいのではなかった
か?」


嗚呼…いつか見たような、夢の話だ。
あまりに幸せで、夢から覚めれば、現実に打ちのめ
されて、余計に苦しくなるだけの。
ただの夢だ。

トキは虚空を瞳に映し、ただ男が姿を消すまでの時間
を耐えようと思った。


「光が見えた。まだ、先の話だがな。お主が望む、
このシステムを壊す人間が、現れる」


ピクリ。
男の言葉に、トキの中の消えかけている光が反応する。


「そ…それ、は…、本当…か?」


「残念ながら、そうらしい。そして、その人間はお主
を殺すだろう」


「は…ははっ!!そうか、そうか…」


トキは自らの両腕で、狂喜に震える身体を抱きしめた。


「つまらんな」


「お前を楽しませるのは、もう十分だ!そもそも、
お前の為にこの命、長らえさせた訳じゃない!!」


睨みつけるトキの瞳は、あの頃よりも力を増していた。
それはどこか、黒い男の目にも似ていた。
トキが気づくことは、ないだろうが。

男の表情が一瞬だけ、柔らかに歪む。


「面白くしてやろう」


男は、スラリと取り出した剣を、トキの前に投げつける。
その剣は忘れもしない…トキに呪いをかけたものだ。


「お主を殺す人間に、お主が呪いをかけろ!決して
老いぬよう、自らの手では死ねぬよう。孤独に苦しみ
足掻き続けるようにな」


「断る!自由が手に入れば、上も下も関係なくなる!
こんな悪習はもう、必要ない!!」


「だから、それがつまらぬと言うておる。わしは初代
クエーサーに、この国の守護を頼まれた。自らの苦しみ
を代償にな。以来、どうでもよい弱小国を護ってやって
いる。これくらいの余興は、続けてもらわぬとな」


「懸命に生きている人間は、お前の遊び道具じゃない!」


「そうか?実に面白い見世物だがな。たかが100年
生きるかどうかの生き物が、無様に足掻く姿は」


「断る!」


「ならば、その光。わしが消してやろう」


「…貴様…」


「そうそう、その瞳だ。せいぜい楽しませろよ?お主の
役割はまだ終わっていないのだからな」


耳障りな笑い声を残し、男は歪んだ空間の中へ掻き
消えた。
消えた…とはいえ、トキの前からいなくなっただけ
であり、男はいつでもトキの様子を伺っているのだ。

下手な小細工はできない。

足元に転がる剣を、トキは手に持った。


「永遠の命など…望まない者にとっては、どれ程の
地獄か…。それでもこの国を…ジャメーリアを、
俺は救いたい…。どうか、許してくれ」


トキは剣を胸に抱き、祈り乞うた。

そして、決意する。
自分を殺しにくる人間に、この呪いをかけなければ
いけないとしたら。
見極めなければ。

一時の不平不満からくる、自分勝手な気持ちで、
自由を望んでいる者でないことを。
真にこの国を愛し、守り続けられる人間であるかを。
そして、どんな苦境の中でも、生き続けることが
できる精神を持っているかを。

見極めなければ。
どんなことをしても。
どれだけ恨まれようとも。









「お主、やりおったな?!」


薄れゆく意識の中で、焦った男の声を聴く。
トキは、ふっと口元を緩めた。


「呪いをかけるべき人間が1人だけだと、決めな
かったのは、お前の失敗だ。諦めろ」


そう。
トキは、代々続く呪いを3人にかけた。

ジャメーリアの制度を「間違っている!」と叫び、
剣を翻し、目の前に現れた男3人に。

何度も叩きのめした。
何度も、何度も。

それでも彼らは、「愛するジャメーリアの為に」と、
剣を握りなおしてくれた。

彼らになら、この国を任せられる。
確信して、トキは自ら殺されたのだ。


「このようなこと…本当にお主は、最期までわしを
落胆させる…」


「約束は守ったのだから、お前も契約に従い、この
国を護り続けろよ?」


「クソッ!!」


吐き捨てて、男が完全に気配を消した。


トキの耳に、懐かしい母親の子守歌が聴こえる。

「ああ。やっと眠れるな」と、トキは思った。
久しぶりに陽だまりの中にいるような気分だった。
とてもいい夢が見られそうで、沈む意識にトキは
身を委ねた。

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