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オリジナル【短編小説】僕と人形の場合・俺と人形の場合

こめなべ-オリジナル【短編小説】僕と人形の場合・俺と人形の場合-タイトル

【短編小説】僕と人形の場合・俺と人形の場合について

このページでは、短編小説『僕と人形の場合』と『俺と人形の場合』の2作を公開しています。

登場人物は、『僕』と『俺』。
同じ物語を視点が切り替わった状態で、描いてみたものです。

ややBL(ボーイズラブ)風味になっておりますので、苦手な方はご注意ください。

オリジナル【短編小説】僕と人形の場合

昔、むかし。
人形を愛しすぎて、魂を吹き込んでしまった、人間がいるという。
だけど、僕は…。

室内は無数のディスプレイと、工具。
あとは…「ピッ…ピッ…」という、単調な機械音で満ちている。
ここにいるのは、僕1人。

正確には…あと少しで、"2人"になる。

作業台に横たわる、彼。
眉目秀麗。
均整のとれた身体は、有名な彫刻家がつくった彫像みたいだ。

左手を伸ばし、彼の胸に触れる。
人と同じ質感とぬくもりを持った、肌。
鼓動を感じることはできないけれど…それでも充分に"人"だ。

僕は右手だけで、キーボードを操作し最後の処理を終える。

「タンッ」

Enterキーを押すと、プログラムが動き出し彼へ向かって流れ込む。
それは永遠のようにも感じられたけど、ほんの一瞬のこと―…。

プログラム終了と同時に、彼がふわりとその目を開けた。
部屋の光を受けて、甘く蕩けそうなチョコレート色の瞳が輝く。
僕は胸に置いた手を、ふっくらした唇へ滑らせた。
外角を誘うように、なぞってみる。

「お…ま……え………」

彼の唇がゆっくりと動いて、僕を認識する。
嗚呼…久しぶりに聴く、彼の声だ。
いとおしさで、胸の奥が震える―…

口づけて微笑んだ僕に、彼は顔を歪ませて応えた。

「よくも…っ…」

憎々しげに吐き棄てると、彼はコンピュータに繋がったコードをものともせずに引きちぎる。
そのまま弾かれたように起き上がると、僕の首を掴んで、目覚めたばかりとは思えない力で、床へ押し倒した。

「信じて…た、のにっ…」

彼の目から溢れる涙が、僕の額に、頬に、唇に降ってくる。
僕の首に添えられた手は、徐々に力を増してゆき、彼の腕に人工血管を浮かび上がらせた。

僕はただ、遠のいていく意識の中で「綺麗だな」と、彼の腕に見惚れていた。

しばらくして…
息絶えると同時に、僕の記憶と感情がすべてコンピュータに吸い上げられてゆく―…
淡々と、静かに。

機能を停止した僕を見て、彼が取り乱す。
大声で叫び、恐怖と絶望を繰り返しながら―…

でも、大丈夫。
きっと、すぐに気づくでしょう。
これは僕たちの、儀式だと。

魂なんて、はるか昔に失くしてしまった僕たちの、記録された記憶が繰り返す、愛の儀式。
さあ、今度は彼が僕をつくる番だ―…。

― 終幕 ―

オリジナル【短編小説】俺と人形の場合

昔、むかし。
太陽に恋い焦がれ、羽根をつくった男がいた。
彼は太陽に近づきすぎて、焼け死んだという。

だけど、俺は―…

室内は無数のディスプレイと、工具。
あとは…「ピッ…ピッ…」という、単調な機械音で満ちている。
ここにいるのは、俺とお前の2人きり。

もう、何ヶ月も何年も…。
人間の感情と記憶を、コンピュータに読み込ませるプログラムを組んでいる。

工業技術が進歩して、二足歩行のロボットが製造されるようになり。
搭載されるAIも、学習能力の高いものが多く、使えば使うほど賢くなってゆく。
人とのコミュニケーションがスムーズにできる物が増えてくると、欲深い人間は次に何を目指すのか。

それは…人とほぼ変わらない、ヒューマノイドタイプのロボットだろう。

企業は"カスタマイズ自由なヒューマノイド"として、芸能人や自分の恋人。
さらにはもう亡くなって、二度と会えない人間を再現しようとしている。
そこで重要になってくるのが、感情と記憶…その人物を構成している"核"だ。

俺たちプロジェクトメンバーは、その核をコンピュータに読み込ませることを任された。
失敗続きの日々に「目に見えない…計れないものを、コンピュータに読み込ませるなんて無理だ!」と、研究員はどんどん辞めてゆき。
気がつけば、ココには俺とお前しかいなかった。

自分たちを実験台に、2人で何度もコンピュータへアクセスを試みる。
良い結果が出ず試行錯誤する中で、決して弱音を吐かないお前に、俺はいつも励まされた。
「お前となら、作れるかもしれない」と、夢見てしまうほどに。

なんと情けなく、感傷的で、乙女チック―…。

「…どういう、ことだ?」

「辞めると言っている訳じゃない…ただ、一度。別の角度から、この研究を見てみたいんだ」

突然。
お前が「しばらく、ここには来られない」と、言い出した。
俺はカッと頭に血が上り、思わず詰問口調で問い詰める。

お前は申し訳なさそうに、言葉を選びながら言い直したが、俺にとって結果は同じ。
お前が、ココからいなくなる…。

「お…ま……え………」

言葉を理解した途端、耳元で脳の血管が「ブツリ」と、切れる音を聞いた。
初めての、感覚。
感情が行動を上回り、自分がなにをしているのかも、わからない。

「よくも…っ…」

裏切られたという、失望と絶望。
どう言葉に表せば伝わるのだろう。

「信じて…た、のにっ…」

口から出るのは、どす黒いコールタール。
苦しさから逃れようと手を伸ばせば、そこにはお前の細い首があった。
迷わず床へ押し倒し、首を掴んだ手に、腕に、力を込める。
「どこへも行かせない…」ただ、その一心で。

しばらくして…俺は息苦しさで、意識を取り戻した。
やけに視界がぼやけると思ったら、号泣していたらしい。
俺の下で横たわるお前は、まるで雨に降られたようで―…。

「す、すまない…今、拭くものを…」

立ち上がろうと手をついて、驚いた。
お前の身体が、冷え切っていたから…。

「あ…嗚呼…あぁあぁあぁっ!!」

しばらく考えて、思い至る。
俺が、お前を殺してしまったと。
後悔と自己嫌悪を喚き散らして、喉も枯れた頃…ふと、コンピュータが目に入った。

お前が最後にアクセスしたのは…確か、昨夜。

その瞬間、俺の脳内に何かが閃いた。
導かれるまま、キーボードへ向かい、狂ったようにキーを叩く。
寝食も忘れ、時間の感覚さえ不確かになった頃。
ようやく俺は、お前の身体が朽ちていることに気づいた。

そうだ。
器が必要だ。

違法な研究を行っていたとして、この業界から追放された同期を思い出す。
ロボットではなく、有機物を使った…ほぼ人間とおなじ構造を持つ、ヒューマノイド
同期の作ったそれは、廃棄されてしまったけれど…面白半分で見せてもらった設計図が、データとしてどこかに残っているハズだ。

「タンッ」

Enterキーを押すと、プログラムが動き出しお前の新しい身体へ向かって、流れ込む。
人の集中力の、なんと恐ろしいことか―…。

髪が伸び、手の皺が深くなる頃。
俺はようやく記憶と感情を読み込むプログラムを完成させ、さらにお前そっくりの有機タイプのヒューマノイドをつくりあげることができた。

「ふっ」と、お前のかすかな吐息が聴こえた気がして、視線を落とす。
やわらかくて温かい、漆黒の瞳と目が合った。

自然とお前の頬を撫で、俺は惹き寄せられるように口づける…。
そうか。
俺は、お前のことを愛していたんだ。

「これから話すことを、よく、聴いてくれ…」

久しぶりに出した声は、随分しゃがれていた。
けれど、お前は俺の声にしっかりと耳を傾けてくれている。
保存後の…記録にはない、お前の記憶を語った。

俺が、お前を殺したことも。

話終ると、お前は見たこともないほど、悲しげに顔を歪ませた。
それを見て、俺は思わず苦笑する。
ああ…ここに居ては、いけない…。

「すまなかった…な」

床に転がる工具を手に取ると、迷うことなく俺は、自分の喉に突き立てた。
お前の叫び声を聴いた気がしたけれど、聴こえないフリをして。

大丈夫。
お前はすぐに気づくだろう。
これでようやく、俺から解放されたのだと。

研究成果もなにもかも、残せるものは全部、お前に譲る手配をしてあるから。
どうか、新しい人生を生きてくれ。
俺は、お前の幸せだけを、祈っているよ―…。

― 終幕 ―