こめなべ

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【声劇台本】終わりのないバーレスク|男性:1人用

ジャンル:シリアス・朗読寄り

演者:男性1人用(年齢不問)
役柄:研究者。表面的には物腰が柔らかく、穏やか。その裏で狂気に満ちた感情を抱えている。本性は、ラストまでヒロインに悟らせない。
※[ ]内のヒロインのセリフは、物語の流れとして書いているものです。ヒロインの声は不要
※【 】内は場所や行動を示しています。セリフではありませんので、読み上げないでください
※SEは効果音の略(あってもなくても構いません)

時間:10分程度(演じる速度や、間合いによって異なります)

場所:病院の内外(途中、男性の回想シーンあり)
時間:昼(回想シーンは、時間指定なし)
状況:致死率の高いウイルスに侵されているヒロインを、研究者の男が助ける。尊敬の念を持ち、声をかけてきたヒロインに、男は自分の過去を話してゆく

本編ここから

【病院の隔離施設にある一室。ヒロインはベッドで横になり、息も絶え絶えな状態】
SE:医療用の電子機械音(ここから指定あるまで)
自動ドアの開閉音。男の足音がヒロインに近づき、枕元の傍で止まる
男、ヒロインの耳元に顔を近づける

[…(浅い呼吸を繰り返している)]

ああ…これは苦しかったね。(ヒロインの頭を撫で)今、薬液を注入するから…(一拍置いて)ヨシ。もう大丈夫だよ。ゆっくりお休み。

[…(意識が遠のいてゆく)]

SE:医療用の電子機械音(ここまで)

【病院の中庭:数日後の昼。自力で歩けるまでに回復した、ヒロイン。中庭に立つ男を見つけ、駆け寄る】
SE:緑が風に揺れる音(ここから指定があるまで)
ヒロインが遠くから走ってくる、足音。男の前で止まる

[先生っ!]

やあ、キミ。そんなに急いで、どうしたの?

[先生に、お礼を言いたくて]

お礼だなんて…僕はただ、したいことをしただけだから。

[それでも!ありがとうございました!]

ふふっ(笑)。どういたしまして。すっかり元気になったようで、安心したよ。

[死ぬかも…って、覚悟してたんです]

そうだね。このウイルスは、とても致死率の高いものだったから。持病のある人たちは、助けることができなかった…。

[先生のワクチンで、助かった人も沢山います!]

ありがとう。そう言ってもらえると、救われるよ。

[開発に数年かかるって言われてましたけど]

ワクチンは量産できるようになったから、もうこの病気を恐れることはなくなるだろう。

[尊敬します!]

ははは(笑)!尊敬?大げさだなぁ。

[先生は、素晴らしいですっ!]

いや…本当に。僕は、なにもスゴくないよ。ただ、知ってただけだから。

[きっと、子どもの頃から勉強されたんですよね]

勉強かぁ…。僕は子どもの頃、体が弱くてね。あまり外で遊べなかったんだ。だから自然と、自分の体に作用する薬に興味を持って。調べていくうちに詳しくなった…って感じかな。

[そうだったんですか…]

結果。薬学の道を進んで、運良く研究者になれた。

SE:吹き抜ける風の音

[…あの…先生、ご結婚は?]

ん?今は、ひとり。…昔。親のススメで出会った女性と縁があって結ばれて、子どももいたんだけど…。

[奥様とお子さんは、今…]

いや。亡くなったよ…2人とも。…ただ…家族3人、穏やかに暮らしてゆければよかったのにな。

[事故かなにかで?]

(ふっ、と自虐的に笑い)ある年の冬だった…

SE:緑が風に揺れる音(ここまで)
【男の回想シーン。時代は、数年前くらい】
SE:冬の街中のにぎわい(ここから指定があるまで)

季節性の感染症が、大流行してね。でもそのウイルスは、一般的なものだったから…例年どおりのワクチンと対処法で、終息していくと思ってたんだ。

SE:冬の街中のにぎわい(ここまで)

【男の寝室:深夜。ベッドで眠っている、男】
SE:電話の着信音。男が、布団から起き上がる音

勤務先の研究所から呼び出しがあったのは、真夜中だった。

【研究所:深夜。軍人たちに取り囲まれる、研究者たち】
SE:緊迫した人々のざわめき

集められた研究者は、軍人たちに取り囲まれた。そして、銃を突きつけられて「ワクチンを作るまで、ここから出ることは許さない」と、言われたんだ。
あまりの理不尽さに怒り、家に帰ろうとする者もいたんだけど…

SE:一発の銃声。一拍置いて、人の倒れる音
【1人の研究者が撃たれて死亡したのを目の当たりにする】
SE:後ずさる、複数の研究者の足音。軍人たちが、銃を構え直す音。

逆らうと殺されることがわかり、僕たちは軍人の話を聞くしかなかった。
この感染症は、例年のものと似ているが、新種のウイルスであること。そして…一般人には伏せられているが、致死率は50%を超えるだろうと言われた。
とにかく早く、治療薬が必要だとね。

【研究室内で、研究者たちがそれぞれ作業している】
SE:キーボードを叩く音や、デジタル音など。研究者たちの足音

30人ほどの研究者は、軍人の監視下に置かれ、連日休みなく働かされた。
過労で倒れる者。心を病んで、自殺を図る者も出て…気がつけば、研究者は9人になっていたよ。

【研究所の廊下。男は疲れ切って、床に崩れ落ちる】
SE:フラフラした足取りの音。崩れ落ち、床に手をつく

僕はなんとしても生きて、妻と息子の待つ家に帰りたかった。

【研究室内に戻り、男は上司に声をかける】
SE:上司の近くまで歩く、男の足音。ディスプレイを指したり、キーボードを叩く音。

そこで、変人と呼ばれ、皆から敬遠されている上司に取り入った。彼が、独特な発想の持ち主だと知っていたからね。常識的な考え方しかできない僕たちよりも、彼は早く答えにたどり着けるのでは?…と、期待したんだ。

【研究室内:静まり返っている】
SE:コトンと、テーブルの上に物を置く音

数ヶ月後。同僚たちが次々と倒れていく中…最後まで残った僕と上司は、わずかな配合の違いによる、2つのワクチンを完成させた。
その頃…ウイルスはもう誤魔化せないほど世界中に広まって、何千万人もの人が亡くなっていたらしい。
一刻も早くワクチンが欲しい軍人たちは、通常の手順を無視して、僕たちで人体実験をしろと命令した。
僕の知らないところで、軍と取引をしたんだろうね。上司は、あっさりとOKしたよ。

【軍人が、男と上司に銃を向ける。上司は、試験管を手に取った】
SE:銃を向けられる音。上司の手にした試験管の中で揺れる、液体の音

上司が、より効果の高い…死なずにすむほうを手にしたんだ。
あと少し…あと少しでココから解放される。家族のもとへ帰れるというのに…!効能の低いほうを飲んで、死んでしまっては意味がない。

【男は上司に掴みかかり、試験管を取り上げた】
SE:バタバタと男2人が揉み合う音
上司の倒れる音の後、男がゴクゴクと液体を飲み干す音

僕は、上司からワクチンを奪って、一気に飲み干した。
軍人たちは、どちらがどの薬を飲もうと、構わなかったらしい。
僕に向かって、なにか言いかけた上司のアゴを掴むと、もう一方を流し込んだ。
……これで帰れる…そう思ったとき。

SE:2発の銃声

発砲音の大きさと、体の真ん中を強く殴られたような衝撃に、驚いた。
なにが起きたのか…軍人が、僕と上司に向かって、引き金をひいたんだ。上司は胸を撃たれ、仰向けに倒れていた。
僕は吐きそうなほどの、鉄臭さに包まれた。それは、自分も同じところを撃たれていたせいだ。
痛み…よりも、悔しさが強かった…。死ぬことよりも、妻と息子に会えなくなることのほうが、辛かった。

【窓ひとつない、牢獄。出入口のドアについている小窓から、人工的な光がもれている。男は部屋の一番奥の壁に、両腕を広げた状態で、それぞれの手を鎖に繋がれていた】
SE:空間に鎖の音が響く

目が覚めたのは、窓ひとつない牢獄の中。両腕を広げた形で、鎖に繋がれて、自由に体を動かせない。
ただ、撃たれたはずの胸の傷は、治っているようだった。

SE:訴えるように鳴る、鎖の音

僕は事情が聞きたくて、大声で何度も叫んだ。やがて声が枯れた頃、外で見張っているらしい男から「お前は、死ぬまで外に出さない」と、言われたよ。
僕はまた、何者かの都合で自由を奪われたんだ。

SE:激しく鳴る、鎖の音(ここから指定があるまで)

ムダだとわかっていても、諦められなかった。僕の帰りを待っていてくれているだろう…妻と息子を想うと、いてもたってもいられなくて。

SE:激しく鳴る、鎖の音(ここまで)。鎖の音、弱々しくなり止まる

時間のわからない中で、どれくらい経ったのか。
僕は、あることに気づいた。自分が食事も水もとっていないのに、飢えを感じていないこと…そして、目覚めてから一度も眠っていないことに。

SE:「グシャリ」と、自然に風化した鎖が崩れ落ちる

繋がれていた鎖が壊れ、突然、両手が自由になった。

SE:ドサッと、男が倒れる

両足は拘束されていなかったけど、しばらく使っていなかったから…バランスを崩して、僕は倒れた。床がヒビ割れて、苔のようなものに覆われていたよ。

SE:男が立ち上がり、ゆっくり歩き出す音

どうにか足を動かして、扉の前に着いた。頑丈そうなそれをどうするか…悩みながら手で触れた瞬間…

SE:扉がガラガラと、崩れ落ちる

扉が、廊下側へ崩れ落ちたんだ。大きな音を立てたから、誰か駆けつけると思ったんだけど…人の気配がない。それどころか、物音ひとつ聞こえないんだ。
壁づたいに歩いていて、驚いた。そこが昔…教科書で見た、どこかの遺跡のようだったから。

SE:ザアッと、吹き抜ける風

外へ出ると、ただただ草原が広がっていた。ここがどこなのか?場所がわからず…僕は、誰かに尋ねようと歩き続けた。
しかし、どれだけ歩いても、人間には出会えなかったよ。

SE:ごうごうと吹き荒れる、風

…街も、国も、世界が、終わっていたんだ……。

【男の回想、終了/病院の中庭:数日後の昼。男の隣には、ヒロイン】(回想前の場所に戻る)
SE:木々がそよぐ音。遠くに聞こえる、談笑する人々の声

あのウイルスがどうなったのか…妻と息子がどうなったのか。本当のことは、わからない。
絶望して、何度も死のうとしたよ。胸を刺し、頭を潰して…。でもね…時間が経つと、元に戻ってしまう。…死ねないんだよ。
(この辺りから、男の狂気が徐々に現れてくる)

[…そんな…]

気が狂ってから、思い出した。上司が言いかけた言葉…「死なない薬」。(クククッと狂ったような笑い…ここから適度にセリフの間にはさんでください)つまり、僕が彼から奪って飲んだワクチンは、不老不死の妙薬だったんだ。

[!?]

どれだけ効果があると、わかっていたのか。もしも彼が飲んでいたら、どんな結末が用意されていたのか。今となっては、知ることもできないけどね。

[…どのくらい、生きて…?]

どれくらい生きてるかなんて、もう数えてないな。だってこの地球も、この歴史も。もう何度繰り返しているか、わからないんだから!

SE:ゴウッと強い風が吹く

それなのに!あのとき飲んだワクチンだけが、どうしても再現できない!
人を救う?そんなことは、どうでもいい!僕はね、僕と同じ時間を生きてくれる人間を、つくりたいだけなんだよ!

SE:男、ヒロインの顔に触れる

…今回はどうかなぁ…?

[は?]

キミに打った薬さ。成功しているといいんだけど…。(クククッと狂ったような笑い…ここまで)

本編ここまで